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相続法の改正について(その5: 配偶者居住権②)

2019.07.19 谷井 智

今回は,前回に引き続き,配偶者居住権について説明させて頂きます。
 
配偶者居住権は,被相続人(亡くなられた方)の配偶者が,被相続人の所有建物に居住していた場合に,遺産分割,遺贈,審判によって,その居住建物に無償で住むことができる権利です(改正民法1028条,1029条)。したがって,別の家に住んでいた生存配偶者が,被相続人の死亡後に戻ってきた場合にはこの制度の利用はできません。
この権利は,生存配偶者の死亡によって終了するとされていますので(同法1036条の準用する597条3項),居住権を評価する場合には,生存配偶者の平均余命や建物の耐用年数が考慮されることになると思われます。ただし,期間を終身ではなく,遺産分割協議等で期間を定めることもできます(同法1030条)。また,第三者に対抗するためには登記が必要とされており(同法1031条),占有(住んでいる)だけでは対抗できないことに注意が必要です。居住権を譲渡することもできず,無断増改築や無断転貸があった場合には居住権が消滅する場合もあります。
 
前回,本制度は,相応しい事案に限って利用すべきことが前提となっていると申し上げましたが,例えば,介護施設に入る等,家に居住することができなくなった場合,居住権の譲渡や転貸ができない関係で,あとになって居住権ではなく預金を貰っておけばよかったという状況になることがありえます。また,居住権が生存配偶者の死亡により消滅する権利なので,生存配偶者がお亡くなりになられた場合,遺産が少なくなることも理解したうえで利用すべきことになろうかと思います。
新しい制度ですので,工夫の余地はあると思いますが,必ずしも良い点ばかりではないということを理解しておく必要があります。
 
本改正の施行日は2020年4月1日となっております。
 
当事務所では,相続対策・遺産問題に関するアドバイスにも力を入れておりますので,お気軽にお問い合わせください。

相続法の改正について(その4: 配偶者居住権①)

2019.07.12 谷井 智

今回の相続法改正では,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活保障の必要性が高まっているという観点から,前回ご説明した特別受益の持戻し免除の意思表示推定規定とともに,配偶者居住権(改正民法1028条~1036条)及び配偶者短期居住権(同法1037条~1041条)の規定が設けられました。今回は,配偶者居住権について説明させて頂きます。
 
配偶者居住権は,配偶者の一方が死亡した場合,残されたもう一方の配偶者が住み慣れた住居に住み続けながら,その後の生活費も確保できるようにするための制度です。例えば,夫が自宅(価値3000万円)と預金3000万円を残して亡くなった場合,妻と子ども2人が相続人とすると,法定相続分では妻は3000万円,子どもは1500万円ずつということになります。妻が自宅を相続することを希望すると,預金は受け取れない計算になりますが(法定相続分とは異なる遺産分割協議が整えば預金を受け取ることも可能です),そうすると,以後の生活費が確保できないという場合に使うことが考えられます。具体的に,自宅の価値のうち居住権が1500万円と評価されたら,妻は居住権と預金1500万円を相続し,子どもが自宅と預金1500円をそれぞれ取得するという分割方法が考えられます。
ただし,立法過程においても,配偶者居住権は相応しい事案に限って利用すべきことが前提となっており,実際にこの制度を利用するのが適切かどうかについては,慎重な考慮が必要です。
具体的な内容や注意点については,次回,お話し致します。
 
本改正の施行日は2020年4月1日となっております。
 
当事務所では,相続対策・遺産問題に関するアドバイスにも力を入れておりますので,お気軽にお問い合わせください。
 

相続法の改正について(その3: 特別受益の持戻し免除の意思表示推定)

2019.05.28 谷井 智

今回は,相続法改正のうち,配偶者保護のための方策(特別受益持戻し免除の意思表示推定)について,改正ポイントを説明させて頂きます。
 
今回の相続法改正は,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活保障の必要性が高まっているという観点から,生前贈与を促進することが検討され,相続税法上の贈与税の特例制度(相続税法21条の6)を参考に,一定の要件を満たす場合には生前贈与の持戻し(生計の資本として生前贈与があった相続人がいる場合は,生前贈与の額を遺産分割の際に考慮する計算方法)を免除する意思があったことを推定する規定(民法903条4項)が設けられました。
 
被相続人(亡くなられた方)が生前贈与(特別受益)は遺産に入れないと意思を表しているのであれば考慮に入れる必要はないのですが,実際にはそのような意思表示が証拠(書面など)として残っている場合は多くありませんので,生前贈与を受けた人は,遺産分割時に貰える額が少なくなるということがあります。これを,婚姻期間が20年以上の夫婦による贈与(又は遺贈)で,居住用の建物・敷地がその対象であった場合は,贈与した側が生前贈与は遺産に入れないという意志表示が証拠として残っていない場合であっても,そのような意思表示があったものと推定することになりました。
これによって,例えば夫が妻に自宅を贈与したあとで亡くなっても,遺産分割で妻が生前贈与を理由に預貯金を殆どもらえないというような事態が起こりにくくなりました。
ただし,被相続人が「相続の際には特別受益として扱うように」というような書類を残していた場合には,この推定は覆ることになります。また,婚姻期間20年は戸籍上の届出が基準になり,内縁関係や同じ相手と再婚した場合の計算については解釈に委ねられることになろうかと思います。
 
本改正の施行日は2019年7月1日となっております。
 
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相続法の改正について(その2:自筆証書遺言の方式緩和)

2019.04.12 谷井 智

今回は,相続法改正のうち,既に本年1月13日から施行されている自筆証書遺言の方式緩和について,改正ポイントを説明させて頂きます。
 
遺言制度は,遺言者の意思を尊重するもので,例えば,生前,自らに尽くしてくれた人へ報いたいという思いを実現するものです。今回の相続法改正で居住権等が認められることになった「配偶者」はあくまで法律上の配偶者(戸籍上の届出がされている配偶者)ですので,内縁配偶者や同性パートナーに報いるには,遺言を活用することが考えられます。一方,遺言がどの程度活用されているかについては,平成27年のデータによると,自筆証書遺言の家庭裁判所の検認件数は死亡者の1.3%程度,公正証書の作成件数は死亡者の8.6%程度にすぎないとのことで,遺言を活用しやすくする方策が検討されました。
 
これまで自筆証書遺言は全文を自署(手書き)する必要があったのですが,遺言書を作成する人は高齢者が多いでしょうから,とくに不動産や預金が多くある方にとっては,作成のご負担が大きかったものと思われます。今回の改正では,本文は自署が必要ですが,財産目録(相続の対象となる財産の一覧表のことです)はパソコンでご本人や周囲の方に作成してもらったものを用いることや銀行通帳のコピー・不動産の登記事項証明書等を目録として添付することで代用できるようになりました。ただし,偽造や変造を防止するために,財産目録にもページごと(両面印刷の場合は両面とも)に署名と押印が必要です。
 
なお,遺言に関しては,今回の改正で法務局による自署証書遺言の保管制度が創設されましたが,これは法務局での体制整備に時間を要することから,施行日は2020年7月10日となっております。
 
 
当事務所では,遺言作成に関するアドバイスにも力を入れておりますので,お気軽にお問い合わせください。
 
 

相続法の改正について(その1:施行日等)

2019.04.02 谷井 智

先般,公益財団法人日弁連法務研究財団主催の中国地区研修会「変わる家族法‐改正相続法と特別養子・嫡出推定制度の見直しを理解する」でパネリストを務めさせて頂きました。
 
同研修会では,第196回国会において成立した「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)に関するものと,現在見直しが進められている特別養子・嫡出推定制度の議論状況に関する講演とシンポジウムが約3時間行われたのですが,改正の範囲が広いため,パネリストとしてはもっと時間が欲しいと感じました。
 
相続法の改正は,遺言制度に関する見直し部分については既に施行されており,今後も以下のスケジュールで施行されることになっています。
 
2019年1月13日 自筆証書遺言の方式緩和(改正民法968条)
2019年7月 1日 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示推定規程,同法903条)
           遺産分割前の払戻し制度の創設等(同法909条の2)
           遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲
           (同法906条の2)
           遺言執行者の権限の明確化(同法1007条,1012条~1016条)
           遺留分制度に関する見直し(同法1042条~1049条)
           相続の効力等に関する見直し(同法899条の2)
           相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
                               (同法1050条,改正家事事件手続法216条の2~216条の5)
2020年4月 1日 配偶者短期居住権の新設(改正民法1037条~1041条)
           配偶者居住権の新設(同法1028条~1036条)
2020年7月10日 法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設
                               (遺言書保管法)           
 
重要な改正が行われておりますので,何回かに分けて改正ポイントをお伝えしたいと思います。 
 

事業承継支援

2018.02.27 谷井 智

平成30年度税制改正で,事業承継税制の改正が行われ,非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予制度の適用要件が10年間の特例措置として大幅に緩和されることになりました。
 
平成20年に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が制定され,中小企業の経営者の世代交代に際しての納税猶予制度や民法の遺留分に関する特例,金融支援などの対策がとられることになりました。しかし,全国的にみてもまだ事業承継への取り組みをされている中小企業の数は限られており,取り組みされていなかったゆえに相続トラブルに発展したケースや廃業を選択せざるを得なかったケースも見受けられます。
つい先送りしがちな後継者問題ですが,技術や雇用を守り,継続的に事業を発展させていくためには,早期の対策が必要であり,本年度の税制改正は,事業承継への取り組みをはじめるよい機会ではないでしょうか。
 
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不当要求(悪質クレーマー)対策について

2016.07.01 谷井 智

 先般,公益財団法人暴力追放広島県民会議が実施されている「不当要求防止責任者講習」で講師を務めさせて頂きました。
 
 本講演は,暴力団対策法に基づいて各事業所の不当要求防止責任者の方に,暴力団等からの不当要求を防止するために必要な対応要領を学んで頂く場で,私が広島弁護士会の民事介入暴力問題対策委員会の幹事を務めていることもあり,講師をさせて頂いております。
 
 クレーム対応には,企業のためになる意見をお聞きする場でもある一方,一般には到底認められないような過大な要求(=不当要求)に発展する場合もあり,現場対応には事前に対応方法を習得しておくことも不可欠ですし,明らかにプロの手口であるなど,現場では対応できない場合には,いち早く弁護士等の専門家に相談することも重要です。
 
 当事務所では,暴力団や悪質クレーマへの対応にも力を入れていますので,事前の社員研修やトラブルに発展した場合の相談がありましたら,お気軽にお問い合わせ下さい。